医療機関広報サポート

リポート 「第2回医療機関広報フォーラム」

「ITベースの広報力」が医療機関経営力に直結する時代

MEDICAL QOL 2003年12月号
MEDICAL QOL
2003年12月号

来院する患者を診ていれば、経営はあとからついてくるという時代はとうに過ぎ去っている。質が求められているのはもちろんだが、医療の情報が入手しやすくなったことを知った患者たちは、質を情報を測ろうとしている。質の高さは情報として発信できなければ、集患に結びつかない時代になった。それが「医療機関広報」の時代だ。

10月17日、奇しくも健保連の記者会見の翌日、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年センターにおいて、「第2回医療機関広報フォーラム」が開催された。主催した(社)日本広報協会は、行政機関から一般企業まで幅広く広報を支援する事業を行っている。「広報力が患者と地域との信頼を築く経営力に」と題された今回のセミナーには、北海道から沖縄まで28都道府県の約120名の医療機関関係者が参加した。広報のプロフェッショナルや広報に造詣の深い医療機関関係者など6名の講演があったが、そのなかで印象的であった三つの講演を紹介したい。

日本広報協会の渡邊昭彦・調査・企画部長は、「医療機関広報広聴の基礎知識」として、医療機関における広報の考え方を示した。

「広義の広報というのはPublic Relationsであり、広聴も加えた、双方向コミュニケーションであるべきです」(渡邊部長)

広報を「わかりやすく伝えること」とすると、広聴は「相手の印象を聴くこと」であり、相手の印象を反映したうえで「さらに伝える」ことが「広報」だと説明した。そして、医療機関広報の役割を病院サイドと患者サイドに分類し、次のように定義している。

医療機関にとって…

  • 自己の再確認、再構築
  • 組織の活性化、職員の士気向上
  • 経営力強化

患者にとって…

  • 患者満足度の向上
  • 選択の自由の拡大

広報の役割を明確に示すことで広報のプランニングは立てやすくなる。渡邊部長は、「まず手段ありき」の広報手法には否定的だ。

「パソコンを使って冊子を作るにしても、『イラストレーターで作ろう』ということからはじめるべきではありません。理由や目的をはっきりさせなければ効果のある広報はできないのです」(渡邊部長)

と「目標管理型」の広報活動を推奨する。そのためにも「Why(理由、目的)」「What(内容)」「Who(対象)」「When(時期)」「Where(場所)」「How(手段)」「Howmuch(費用)」という5W2Hを明確にしたプランニングが重要だとしている。

また、広報メディアについては、インターネットにも言及した。

「医療機関のホームページは、最近特に人気を集めています。現時点でのアクセス数は決して多くはありませんが、着実に増えています。国民の50%がインターネットを利用するようになっていますから、費用をかけてでもしっかりとしたものを作るべきでしょう」(渡邊部長)

患者アンケートも重要なメディアであるが、結果や回答を患者に示すことが難しかった。ホームページを開設することで、アンケートをどのようにフィードバックしているかを示しやすくなるはずだという。さらに、患者の要望に応えて努力している姿を示すことが、高い効果の広報になることも指摘した。

次に、亀田総合病院の看護部長でもある竹股喜代子理事は、「患者の信頼と満足を得ることが、広報活動の最初のステップになる」という趣旨で、医療法人鉄蕉会全体での広報活動の取り組みを紹介した。同病院では、1978年から病院報を刊行し、隔月6,000部を職員や家族、一般向けに発行してきた。連載している「ナースコラム」では、看護師の仕事現場を赤裸々に綴ることもあり、それが患者に対して、看護という仕事への理解を促進することにもつながっているという。さらに、患者向けの「亀田ニュース」を毎月2回、職員向けの「院内通信」を隔月2回ずつ発行。「亀田ニュース」では、医療関連情報の提供や啓蒙、診察スケジュールなど、患者参加型の医療に必要な情報を掲載し、「院内通信」では職員イベントの告知など、目的を明確にした印刷物広報を続けている。これだけの定期刊行物があれば、その仕事量も膨大で、編集専任スタッフを2名、DTP専任スタッフを4~5名配置しているという。

同病院の広報活動は、印刷物だけではない。

看護支援外来の活動
糖尿病支援外来・禁煙支援外来・ストーマ外来など看護職によるサービス
健康フェア
看護師・歯科衛生士による一般健康相談。毎月第二火曜開催
生活習慣病支援プログラム
公開糖尿病教室や健康教室の開催

「看護支援外来は、もちろん診療報酬などつきませんが、患者さんの利便と満足を得ています」(竹股理事)

患者の信頼と満足が広報につながる代表的な例だろう。看護師の人的コスト、外来に必要なスペースのコストなど経営的なデメリットは小さくないだろうが、患者の信頼を得ることを優先した、やはりこれも広報活動だ。健康教室においても一般的医療知識を講演する一方で、検査を同時に実施して、人気を集めているという。こうした同病院の取り組みには一つひとつ「双方向型コミュニケーション」への意識が垣間みえるが、竹股理事が「双方向型の広報」として強く意識している試みがある。「患者さま情報プラザ プラタナス」の開設だ。患者本人の個人情報と医療に関する広範な情報をパソコン端末で提供するコーナーを設けている。

「医療に参加してもらうためには患者さんにも知識が必要ですから、それを提供できる環境を作っています」(竹股理事)

日本中にその名を知られる亀田総合病院が、広報という面においても、他に先んじて、「双方向」を強く意識した最新の取り組みに着手していることがよくわかる。

本セミナー最後の講演は、ホームページの作成に関する内容だった。講師はWebデザイナーとして活躍する、グローバルデザイン株式会社の白旗保則代表取締役だ。

「数年前までは、ホームページといっても印刷物の内容をそのまま公開しているにすぎませんでした。しかし、最近は特色のあるページが増えてきたと感じています」(白旗代表)

白旗氏は、自治体ホームページを例にあげ、多様化するホームページデザイン、機能がすべて目的に基づいていることを指摘し、「何のために作るのか」という意識の重要性を強調した。白旗氏はホームページコンクールの審査員も務めているが、

「デザインの善し悪しは、そのホームページの目的がなんであるかによってまったく異なるのです」(白旗氏)

として、自院のホームページを訪れる患者たちが「何を求めているのか」を熟慮することを求めている。そのうえで医療機関のホームページ機能を三つに系統分類し、そのあり方を提示した。

広報としてのホームページ
病院案内としての機能を第一歩とし、続いて診療実績など利用者にとって選択材料となる情報を提供
広聴としてのホームページ
幅広く意見を聞くことのできる「掲示板」やリアルタイムの情報を交換できる「チャット」などの機能
サービスとしてのホームページ

すでに多くの医療機関で実践されている「お見舞いメール」や「オンライン問診票」、規模の小さな医療機関であれば予約案内、予約状況の告知など、こうした機能を十分に把握することが、ホームページを作成する第一歩になるということだ。白旗氏の講演では、ホームページの効果的な告知方法などにも内容が及び、Web制作のプロフェッショナルらしさが聴衆に関心を高めていた。

本セミナーの講師の1人が「すでにホームページを開設している人は?」と質問すると、参加者のほぼ全員が手をあげた。医療機関のホームページはもはやめずらしいものではなくなっている。しかし、その光景を眺めて思うことは、セミナーや研修会を取材して、常々感じることではあるが、参加するのはいつもその分野に高い見識と関心をすでに持ち合わせている人ばかり。次のステップを見据え、新たな情報を求めて積極的に勉強しようとしている。既存のホームページをもっていても、より訴求力のあるサイトにすることの重要性を認識している。これではますます医療機関の経営力格差が開いていくばかりではないのだろうか。

「情報はインターネットで探すもの」という認識は確実に広がりつつある。それが完全に浸透するとは言い切れないが、仮に浸透したとすれば、インターネットでみつけることのできない情報は、存在しないのと同じ意味をもつ。ホームページをもたない医療機関は、患者にとっては存在しないのと同じことだ。もちろん、広報とはホームページのことばかりを指すのではない。しかし、対人間の双方向コミュニケーションが広報の真髄にあるのであれば、人間の文化がもたらした情報発信の頂点にあるインターネットを無視することはできない。健保連の取り組みや広報フォーラムの盛況は、現在求められる広報力の強化がITベースで推進されるべきことを示している。

 

*このレポートは、『MEDICAL QOL』2003年12月号に掲載された記事を、出版社の許可を得て掲載しているものです。

 

ページトップへ