トップページ > コラム > 広がり続ける「広報力」空間 > Vol.10 記憶を記録するということ~実相寺作品を支えたあるカメラマンへの聞き取りから
本記事は、月刊「広報」連載「広がり続ける広報力空間~広報コミュニケーションの近未来を探る」から一部を抜粋したものです。
全国広報コンクール映像部門の最近の傾向として、当事者に対する“聞き取り”を軸とした秀作が目につく。特に2015年は戦後70年だったこともあり、例えば、静岡県浜松市の『戦後70年~語りつぐ戦争~』が入選を果たしている(平成28年)。戦争体験の場合、証言できる人たちの高齢化が大きい。今聞いておかなければ、その貴重な記憶が永遠に失われてしまうという危機感だ。
私自身が現在取り組んでいる聞き取り調査の一端を紹介させていただこうと思う。研究テーマは「実相寺昭雄監督の映像世界」。2006年に亡くなった実相寺監督が遺した品々を整理・保存するとともに、その人物と作品を研究し、次代に伝えていくことを目的としている。この1年、研究会(実相寺昭雄研究会)は放送文化基金の助成を受け、資料のデジタル化と、関係者への聞き取り調査に取り組んできた。研究の成果は、「実相寺昭雄オフィシャルサイト」(http://jissoji.wixsite.com/jissoji-lab)を通じて、随時公開している。
スペシャルドラマ『波の盆』が放送されたのは、1983年11月15日のことだ。この作品は実相寺監督にとって19年ぶりとなるテレビドラマだった。光と影による大胆な構図など、磨き抜かれた“実相寺カット”を駆使しながら、緻密に物語を構築していった。最終的に、この年の「芸術祭大賞」や「ATP大賞」を受賞するなど高い評価を得る。
『波の盆』の撮影を担当したのが中堀正夫カメラマン(73)であり、今回、実相寺作品の中で重要な位置を占めるこのドラマについて、詳細に語っていただいた。なお、聞き手の碓井広義は当時テレビマンユニオンに所属し、このドラマでは製作助手を務めていた(※聞き取り内容は「実相寺昭雄オフィシャルサイト」Interview/「『波の盆』のこと」参照)。
カメラマンとして、長年、実相寺作品を支えてきた中堀正夫さんの記憶を記録することで、今後その記録に接する人たちの新たな記憶となり、何らかの形で生かされていくことだろう。聞き取りという一見地味な取り組みが、未来の文化シーンを押し広げることにつながると信じている。
自治体広報にとっても、地域の皆さんの記憶は貴重な資源だ。特に映像による証言は、その人の表情も含め臨場感に満ちている。多くの取り組みが登場することを期待したい。
※記事の全文は、月刊「広報」2016年8月号でお読みいただけます。
1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年にわたりドキュメンタリーやドラマの制作を行う。慶應義塾大学助教授、東京工科大学教授などを経て現職。専門はメディア論。放送を中心にメディアと社会の関係を考察している。著書に『テレビの教科書』ほか。北海道新聞、日刊ゲンダイ、日経流通新聞などで放送時評やコラム、週刊新潮で書評を連載中。日本広報協会広報アドバイザー。全国広報コンクール映像部門審査委員。