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広がり続ける「広報力」空間~広報コミュニケーションの近未来を探る Vol.4

住民の地域への積極的関与を定量評価
~シティプロモーションの成果を測るための一提案

本記事は、月刊「広報」連載「広がり続ける広報力空間~広報コミュニケーションの近未来を探る」から一部を抜粋したものです。

  • 河井孝仁
    東海大学 文学部 広報メディア学科 教授

シティプロモーションは「どうなったら成功」なのか

シティプロモーションの成功とは何だろうか。それぞれの自治体にとって異なる「成功」がある。ここで述べることは「こうした考えもある」との提案である。

シティプロモーションの成功指標を、定住人口に置く自治体がある。住民基本台帳に何人が掲載されているかという数字である。この数を増やす、減らさない、減るにしてもこの程度にとどめる。そのような数字を、シティプロモーション成功の可否を測る基準に置くことがある。

シティプロモーションの成功指標を住民基本台帳上の人口とすることには、多様な課題がある。人口の増加や下げ止まりを、シティプロモーションの成功によって説明することは難しい。今後、シティプロモーションの「イケイケどんどん」な状況が変化したときに、相当程度の予算を用いて行われたシティプロモーション施策について、納税者や議会からその意義を問われたときに、説明に窮することさえ危惧される。

人口が加速度的に減少すれば、地域が存立しなくなる。しかし、シティプロモーションだけでは人口は増えない。減少をとどめるにも力不足である。少なくとも一時的にでも人口を増やすには、例えば宅地造成と新駅設置があればいい。地道に地域の魅力を発信しているよりも十分に分かりやすい。

 

地域にかかわる市民を増やすシティプロモーション

それではなぜ、シティプロモーションと呼ばれる施策を行うのか。それは地域が「経営されるもの」だからと考えている。地域経営は、主権者としての市民と、代理人としての行政・企業・NPOによって形成される。シティプロモーションの成功指標を考えるために、この地域経営の考え方を尊重したい。

人口が増加し、あるいは下げ止まったとしても、主権者であるはずの市民が地域に関心を失い、行政サービスの単なる顧客となってしまうのであれば、行政の負担は次々と増加する。

しかし、市民が地域に積極的に関われば、市民の力で地域課題が解決できる。また、市民がNPOや企業の活動に向けて適切な評価や意見を述べれば、NPOや企業が提供する公共サービスがよりよいものになる。市民が地域を創(つく)りだす当事者となれば、自分たちが創りあげた地域の魅力を多くの人々に推奨したくなる。その推奨の力が、地域内外の人々を動かすこともあり得る。

地域への積極的関与とは、いわゆるまちづくり活動への参加にはとどまらない。さまざまな理由によりまちづくり活動には参加できなくても、地域のために働いている人々に感謝し、その活動を伝えることも含まれる。感謝されることは、まちづくりに関わる人々のモチベーションとなる。さらに、市民が自らのまちを積極的に推奨すれば、地域外の人々の思いや行動も変わり、地域を支えてくれるようになる。

シティプロモーションとは、市民を参画する主権者とし、市民を地域の魅力を発信する者とし、ひいては、市民の力によって地域に必要な資源を獲得する施策である。

※記事の全文は、月刊「広報」2016年2月号でお読みいただけます。

かわい・たかよし

静岡県生まれ。博士(情報科学)。名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程。静岡県情報政策室等を経て2005年4月、東海大学文学部広報メディア学科准教授に就任。2010年から現職。専門は、行政広報論、地域情報論。公共コミュニケーション学会会長理事。著書に、『シティプロモーション 地域の魅力を創るしごと』(東京法令出版)、『地域を変える情報交流創発型地域経営の可能性』(東海大学出版部)、『地域メディアが地域を変える』(日本経済評論社)ほか。

 

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