本書は、現代の都市行政が抱える課題全般について書かれた理論書である。書名は「都市行政~」だが、既に国民の約8割が都市に住み、今後、合併によって各自治体の規模が拡大することを考えれば、今は地方自治に携わるだれもが都市行政を無視できない時代なのである。
本書の構成は、第1部「現代都市の行政研究序説」、第2部「都市行政の活動と政策」、第3部「都市制度と地方分権」、第4部「都市行政機構の管理改善」、第5部「都市自治体の行政広報」となっている。この中で広報担当者が参考にしたいのはもちろん第5部。
昨今は広報紙製作のデジタル化やインターネット・ホームページの製作・管理など、広報担当者の業務環境が大きく変わってきた。それに伴い広報広聴の関連図書も、必然的に「スキルを身につけるための実用書」的なものが多く刊行される傾向にある。しかし広報紙の担当者であれ、パブリシティの担当者であれ、広報の仕事に携わる者はできるだけ早い時期に広報広聴の理論を学び、理念に基づいた仕事をしなければ、効果ある広報活動は実現できないだろう。その意味で本書第5部は、広報担当者が一度は学ぶべき、最適な「理論集」といえる。
第5部では、第1章「行政広報の公共性と政治性」、第2章「行政広報の管理と戦略」、第3章「行政広報と政策決定」、第4章「行政広報とパブリシティ政策」、第5章「高齢化社会と行政広報」の順に考察が進められていくが、著者が一貫して説くのは「参加型広報行政が必要である」ということだ。
例えば、「広報過程によって住民と自治体当局が結びつけられる関係には、多かれ少なかれ住民が参加し、その結果反応がフィードバックされて自治体当局へ帰結するという循環過程が形成される。したがって、広報の結果反応がフィードバックしないような状況は本来の広報活動ではなく、いわゆる報道活動にすぎない」と著者は指摘するのである。
一方、新しい視点として興味深いのが、第5章の「高齢化社会と行政広報」だろう。ここで著者は「高齢者人口が増え、高齢者向け広報活動の一層の活性化が期待されているにもかかわらず、(中略)所期の成果を挙げていない」と指摘し、広報活動における高齢化問題の認識として、(1)用字用語、外来語の使用などに関する技術的な問題、(2)情報提供量のバランスの問題(広報テーマ全体の中での制約の問題)、(3)周知徹底を意図するために広報担当者の工夫と意欲が要請される、3点が必要だと強調する。
本書は全512ページ、第5部だけでも113ページある大著。著者は行政広報研究の第一人者(現在、日本大学法学部教授)であり、日本広報協会・広報アドバイザー。