トップページ > コラム > Net de コラム > Vol.48 緊急会見に見られる二つの特徴
「3時間以上」。映画や演劇の時間ではありません。最近行われた「緊急記者会見」(会見)の説明と質疑応答を合わせた時間です。そしてその会見は長時間にわたりテレビ中継され、インターネットでは完全中継されました。
最近の会見に見られる主な特徴は、
の二つです。
この二つの特徴が顕著だったのは、現在もさまざまな検証が続いている理化学研究所のSTAP細胞論文に関する複数の会見です。冒頭に紹介した会見は2014年4月16日に行われた笹井芳樹・副センター長の会見で、4月9日の弁護士が同席した小保方晴子・研究ユニットリーダーの会見も約2時間半でした。インターネット完全中継映像はその多くがYou-Tube等にアップされ、会見後もインターネット上で視聴可能です。以前はテレビのニュースやワイドショーで冒頭の謝罪と質疑応答の一部など5分程度に編集された映像しか視聴できなかったことを考えると時代の変化を感じます。
自治体や企業の広報担当者にとっては、半永久的に残るインターネット上でのアーカイブ化を視野に入れた会見のコーディネートが求められるようになったのです。
次に会見の長時間化についてです。
長時間化を占めるパートは質疑応答の時間です。質疑を行う記者が多いのは、(1)社会的に関心が高い、(2)説明内容が専門的で難しい、(3)会見場の記者が多い、などが共通している要素です。理化学研究所の一連の会見が正にそれです。
前提として、会見での質疑応答のパートは記者の質問がなくなるまで行うべきです。まだ記者の質問が多数ある中で、組織(自治体、企業など)や個人(政治家、芸能人など)側の都合によって一方的に会見が打ち切られ、会場で記者とトラブルになった例は過去に多数あります。途中での一方的な打ち切りは結果的に「逃げた」「何かを隠している」「誠実さに欠ける」といったネガティブなイメージが増幅されてしまうので、クライシス・コミュニケーション(危機管理広報)の観点から適切ではありません。
しかし、長時間の会見には一定の限度があります。時間の感覚は人によって認識が異なりますが、3時間以上などは誰が考えても長すぎると認識するでしょう。映画でも演劇でも講演でも途中で10分程度の休憩が用意される長さです。
会見の長時間化は組織側の会見出席者(以下:会見者)の精神的、肉体的な面で大きな負担をもたらし、そこで生じる緊張感によって思わぬ失言を招くリスクも増大します。個人的にはどんなに長くても説明と質疑応答で2時間くらいが限度ではないかと考えています。広報担当者はクライシス・コミュニケーションにおいて、会見者の体調管理も極めて重要なポイントの一つであることを再認識すべきです。
長時間化の原因はほかにもあります。ネット上にアーカイブされた会見映像のいくつかをあらためて視聴し、また私がこれまで自治体や企業や病院等で講師経験のある「模擬緊急記者会見トレーニング」「メディアインタビュートレーニング」や「実際に立ち会ったことのある会見」での知見をあわせて検証すると、前述の三つの要素以外で重要な原因が見えてきます。
それは「会見者の回答のスキルに問題がある」点です。具体的には次の二つの点が指摘できます。
一つは「記者の質問に対して一部分しか回答していないことが多い」点です。記者の質問に対する会見者の理解力が不足しているのか、分かりやすく回答しようという意識(一種のサービス精神)がもともと欠如しているのか、または組織防衛の観点など戦略的にあえてポイントを外した回答をしたのかは、会見者本人に聞き取りするしかないので、なかなか判断が難しいところです。
質問の大半を占める事実関係に関しては、記者側は5W1Hや時系列での簡潔な回答を求めています。これについて一部分しか回答しなければ、「それはいつですか」「それはどこですか」といった5W1Hの基本要素の追加質問があることは明白ですし、実際にそのようなやり取りが頻繁に発生しています。これでは会見の長時間化は避けられません。
一部の記者の質問には、会見者がすでに何度も説明していることを繰り返し質問するといった問題もあります。しかし、やはり問題の大半は会見者の回答が不十分であることに起因しています。
もう一つは「分かりにくいあいまいな回答を繰り返している」点です。
これは原因がはっきりしています。それは「結論を後回しにした回答」につきます。記者は重要なことから書く、いわゆる「逆三角形」のスタイルに慣れています。ところが会見者の回答はそうなっていないことが多い。記者が求めているのは、(1)最初に質問に対する結論、(2)その理由と簡潔な説明という順番の回答です。この点での両者のギャップは非常に大きく、従って記者は回答について「…ということでよろしいですね」とまとめをして再確認の質問をすることになります。これも会見が長時間化する原因の一つです。
では、これをどのように解消したらよいのか。
組織において会見に出席する立場のスポークスパーソンに対して平常時に「模擬会見トレーニング」や「メディアインタビュートレーニング」を実施することが最も効果的ですが、ただ実施すればいいものでもありません。組織内、組織外を問わず指導する講師のスキル、実践的な内容かどうかの検証が必要です。また、トレーニングで出された具体的な課題とその解消方法はマニュアルに追加・修正します。
そして、トレーニングの中では、
「事実関係に関する質問に対しては基本的に5W1Hで簡潔に回答する」
「回答はまず結論から述べる」
の二つのポイントを徹底して指導すべきです。
回答における結論といってもYES、NOだけではありません。「回答が難しい、分からない」場合でもそれを最初に述べて、その後理由を述べればよいのです。非常に分かりやすい回答になります。
二つともメディア対応の基本的なことですが、自治体や企業の広報担当者は、スポークスパーソンに対してこれをあらためて再確認して徹底すべきでしょう。基本的なことがきちんとできているかを繰り返し検証する、すなわち「準備と確認」が危機管理広報や危機管理の心得なのです。
ひらの てつや
1958(昭和33)年東京都生まれ。学習院大学を卒業後、PR会社に16年間勤務。1998(平成10)年にフリーランスの広報・危機管理コンサルタントとして独立。主な著書に、『実践!ネットワーク社会の危機管理』(竹内書店新社)、『苦情対応システム リスクマネジメントマニュアル』(共著、通産資料調査会)がある。