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住民の立場に立つこと

4月早々、私が住むまちの広報紙が届いた。新年度が始まったこともあり、4月号は新年度事業の特集が組まれている。市が掲げる重点施策の中から新たに予算化した事業の内容を簡潔に紹介し、完成時期や担当セクションの電話番号も掲載してある。しかも、それが一つのマップに落としてあるので、どの地区でどんな事業が行われるのかが、一目瞭然(りょうぜん)だ。これはいいなと思った。

だれでも自分の住む地区への関心は高いが、他の地区のことになると、それほどでもない。ところが、行政の予算の使われ方となると、隣の芝生はなんとやらで、他の地区のことが気になって仕方がない。

この広報紙を読んで初めて、「あそこの歩道整備がなんでウチより先なんだ」と憤慨したり、「隣の地区センターは今年、改修されるらしいが、ウチのほうはいつやるんだろう」と心配したりと、彼我を比較することで、おぼろげながら地域の全体象が見えてきた。次第に「へえ、あの地区には高齢者向けの施設がなかったのか」などと妙に納得しつつ、次のページを開いてみると、新年度には予算化できなかった住民の要望と、そのことへの回答(なぜ実現できなかったか、実現可能な時期など)が掲載されている。住民の要望も詳細で的を射たものばかりなのだが、前ページの新事業と比較しながら、地区内での事業の優先度を考えてみると、恐らくだれもが納得できる結論であることが分かった。

仕事柄、こうした広報紙の類(たぐ)いは全国の自治体から定期的に送っていただいているので、あの自治体の広報紙は特集が個性的だとか、この広報紙はデザインが凝っているといったレベルのことは理解していたつもりだった。ところが、広報紙の本質ともいうべき「その地域の人にとって本当に必要な情報は何か」ということは、実際にそこに暮らす人にしか分からないということに気が付いたのである。

そして、そのことを一番よく知っているのは、やはり自治体の広報担当者なのだろうと、思う。住民が一番知りたいこと、行政が一番知らせたいこと、この両者が一致していれば何も問題はない。そこは、いかに分かりやすく伝えるかという技術力次第、担当者の腕の見せ所だ。

ところが、行政が知らせたくとも住民が知りたくないこと、住民が知りたくとも行政が知らせたくない(広報の必要性を認識していない)こともあるかもしれない。そんなときは、まずは住民の立場に立つということを広報担当者にお願いしたい。

いけだかつき

1954(昭和29)年生まれ。月刊『晨』『地方分権』編集長を経て現職に

 

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