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「信愛建設」って何だろう?

  • 猪狩 誠也
    東京経済大学教授

「信愛建設?」聞いたことのない建設会社だなと思いますか?

実は第2次世界大戦後、当時の占領軍を通し、「パブリック・リレーションズ」(PR)が日本に導入されたとき、この英語では日本人は分からないだろうといって、先覚者たちがいろいろ考えた訳語の一つです。当時、アメリカでも最高の売上げ部数を誇っていた雑誌『リーダーズ・ダイジェスト』の東京支配人をやっていた殖栗文夫さんの訳語です。1951(昭和26)年という年はパブリック・リレーションズあるいは広報に関する本が10冊近く出版されたという意味では記憶されるべき年ですが、その中の一つ『わかり易いパブリック・リレーションズ』で定義したものです。引用をしてみます。

「PRは個人または団体が世間への理解を求め、それをすすめることによって一般の支持を得ようとするあらゆる活動を指しています。言葉を変えれば、信用と愛を求めようとする活動です。自己の理想や特長を内外にひろく徹底させて、信用のみならずさらにすすんで愛を築き上げようというのがPR活動です。この意味で私はPRを“信愛建設”“信愛活動”と訳したいのです。」

一方で、それぞれの官公庁ではPRをどう訳したら人々に分かってもらえるだろうかと頭を捻(ひね)って出てきたのが広報課、公聴課などで、今では企業でも自治体でもほぼ広報に落ち着いて、信愛活動などと言っても笑い出すくらいでしょう。しかし今考えてみると、果たして広報で良かったのだろうか、と思うのです。

「広報活動とは何か、一言で説明せよ」と言われたら、私は「○○と信頼関係をつくること」というように答えたいと思っています。○○には住民でも消費者でも、いま最も話し合ってみたい人たち、意見を聞きたい人、こちらの意見を聞いてほしい人を入れるわけです。

青臭いと思われるかもしれませんが、広報担当者は、いつもこう思っていてほしいのです。殖栗さんの言葉は決しておかしくない、極めて広報という仕事の核心を衝(つ)いている言葉だと思います。

いかりせいや

1933(昭和8)年生まれ。東京経済大学教授。 『近代経営』編集長、ダイヤモンドビッグ社社長を経て現職に。

 

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