トップページ > コラム > Net de コラム > Vol.7 入試のミスと危機管理
いま、入学試験のシーズンです。昨年(2003(平成15)年)の大学入試では、多くの不祥事が話題となりました。その報道件数は、前年を大きく上回りました。入試には、公平性と公明性が求められることは言うまでもありません。特定の受験生が有利になったり、逆に不利になったりするようなことが起こってはいけません。しかし、現実には起こってしまいます。
入試では、受験生やその保護者は過敏です。学校側の一方的なミスが強く非難を浴びるのは当然です。ミスを隠さずに説明し、受験生に不利にならないような対応策を社会に公表しなければ納得しないでしょう。入試のミスの公表が昨年は多かったと述べましたが、不祥事そのものが急増したという訳ではないと思います。ミスの発生と対応策を公表する学校側の姿勢が定着してきたことによって、報道件数が増加したと考えられます。もちろんミスが発生しないに越したことはないのですが、ミスが起こった場合、それを隠すことが許せないという認識が高まってきた点に関しては、望ましい傾向と言えます。
学校でも、行政機関でも、民間でも、どんな団体においても、トラブルやミスを完全になくすために努力することは当然ですが、それでもミスは避けられません。そして、それに誤った対応をすると、さらに新たなトラブルを引き起こしてしまいます。「危機管理」という言葉が定着してきましたが、ミスやトラブルを想定し、日ごろから適切に対処する準備の必要性が認識されてきたと言えます。
情報には、個人情報やプライバシーのように、安易に人に知らせてはいけないものもあります。一方で、社会的に共有すべき情報もあります。不祥事については、その事実と対応策を、社会に的確に公表し、理解を得る姿勢が求められるようになりました。平常時と緊急時の情報の提供活動、すなわち広報の理念と体制をしっかりと確立しておく必要があります。
行政機関には、周知徹底をねらった日ごろの広報広聴活動と、もっと詳しい情報を知りたいと望むものに応(こた)える情報公開制度などが整備され始めました。その運用にはまだまだぎこちない面もみられますが、その理念と仕組みは、情報の社会的共有を目指す上で広く参考になるのではないでしょうか。
こいけやすお
1949(昭和24)年生まれ。コンサルタント会社勤務、福島大学行政社会学部助教授などを経て現職に。日本広報協会広報アドバイザー