トップページ > コラム > 広がり続ける「広報力」空間 > Vol.13 コミュニケーションの「基本」と「バランス」~「メディア・リッチネス」から広報を捉え直す
本記事は、月刊「広報」連載「広がり続ける広報力空間~広報コミュニケーションの近未来を探る」から一部を抜粋したものです。
私が民間企業で、広報の仕事に直接携わっていたのは、1998年から2005年までの約8年間にあたる。当初は、マスコミ記者との取材対応が主な仕事だった。そのうち、インターネットが一般に広く利用されるようになりウェブ広報が増えてきた。また、2000年代前半はCSR(企業の社会的責任)への関心が高まり、CSRレポートなどそれに応じた仕事にも携わってきた。自らの経験から広報の仕事をざっと振り返ると、仕事の幅の広がりとともに、関わるメディアも多様に広がってきたことを改めて感じている。
現在のインターネットの利用状況を思い浮かべてみると、ソーシャルメディアなど広報ツールがさらに多様化し、その対応に追われる広報担当者の姿が目に浮かぶ。ただ、そのイメージの中では、メディアの多様化とともに広報の仕事は複雑化しているが、その苦労の割にはさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションがなかなか思うようにいかない様子もまた目に浮かぶ。例えば、多様な発信ツールを揃えてみたものの、果たしてどれだけ意図した相手に必要な情報が伝わっているのか、その手応えが感じられないことはないだろうか。
見方を変えれば、メディアが多様化することは、コミュニケーションする相手のメディアの利用パターンも多様化することでもある。一見便利な広報ツールが増えてきたようでありながら、多様なステークホルダーとの間に、コミュニケーションの不確実性もまた増してきた。それが、現在の広報の仕事における大変さや悩ましさにつながっていると、私は考えている。
私の好きな言葉の一つに「不易流行」がある。江戸時代の俳人・芭蕉の言葉(『去来抄』より)だが、広報の仕事にも「不易流行」がある。メディアの多様化に象徴される社会の情報環境の変化は、流行そのものだろう。たしかに1980年代の広報スタイルは、現在のものと大きく変わっている。ただ、どのような組織であれ、広報パーソンに求められる「広報マインド」は、不易なものではないかと考えている。
それは、何よりも受け手の立場からコミュニケーションを考えること、コミュニケーションを通して信頼関係を長く築くことを重視すること、そのためには適切なメディア選択によりコミュニケーション効果を高める工夫を怠らないこと。そして、今回強調したコミュニケーションの基本である「対面関係」のもつコミュニケーションの価値を、リッチネスの視点から十分理解し、常に意識しておくこと。
コミュニケーションは、研究すればするほどその奥深さを感じる世界だ。広報は、流行に目を奪われ過ぎず、不易とのバランスを忘れないことが、何よりも求められる仕事ではないだろうか。
※記事の全文は、月刊「広報」2016年11月号でお読みいただけます。
みやた・みのる
大手印刷会社、教育出版社でマーケティング・編集・調査・研究・広報など多様なキャリアを蓄積。仕事の傍ら、1999年東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科に社会人入学。研究を重ね、2004年博士課程修了、博士号取得。コミュニケーション学で日本で初めて博士号を取得。2006年から相模女子大学教員。専門は、コーポレートコミュニケーション、企業の社会的責任、NPO論、企業広報、行政広報、組織内コミュニケーション論など。著書に、『サステナブル時代のコミュニケーション戦略』(同友館)、『協働広報の時代』(萌書房)、『ソーシャルメディアの罠』(彩流社)、『昭和30年代に学ぶコミュニケーション不易流行の考え方』(彩流社)