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石原信雄の世相診断 Vol.20

三位一体改革の合意とこれからの課題

明らかになった三位一体改革の全体像

行政関係者、経済界の皆さん、マスコミの方々が大きな関心を寄せていた三位一体改革の内容が固まりました。

すなわち、2005(平成17)年11月29日の政府与党の合意によって、義務教育の負担金については現在の国庫負担率を2分の1から3分の1に引き下げる、児童手当の国庫負担率を3分の2から3分の1に、同じく児童扶養手当を4分の3から3分の1に引き下げる、施設整備費の一部を税源移譲対象とする。一方、地方団体がこぞって反対していた生活保護費の削減は行わない、といったことが決まったのです。これにより、3年間に及んだ三位一体改革は、削減される国庫負担金の総額は約4兆円を超えるという全体像が明らかになりました。

一方、小泉総理大臣がかねてから明言していた、「国税から地方税への移譲」については、所得税の一部を地方住民税に移し替えるということで約3兆90億円の移譲が決まりました。これらによって、いわゆる三位一体改革の第一段階は一応の結論を得たわけです。

 

抜け落ちてしまった「権限の移譲」

今回の合意事項について考えますと、国庫補助負担金の削減の総額に対応する国税から地方税への移譲の総額は、小泉総理がかねてから明言していたとおりの形となりました。その意味で三位一体改革は、総枠としての目標は一応クリアできたと言えます。しかし、内容的にはいろいろ問題点が少なくありません。

すなわち、今回の国庫補助負担金の削減の主要な部分は、国庫補助負担率の引き下げによって実現しています。つまり、国から地方への負担の転嫁は行われるが、これに対応して地方団体が強く主張していた「国から地方への権限の移譲」はみえてこないということなのです。

さらに2005(平成17)年12月18日、平成18年度の地方財政対策が決まりました。これによりますと、平成18年度は何よりも地方の歳出規模が厳しく抑制され、特に地方交付税については前年度対比で1兆円近いネットの削減が行われることが明らかになりました。

そこで考えさせられるのは、そもそも三位一体改革とは何であったのか、何を目指したのかということです。私たちは改革の原点をもう一度思い起こしてみる必要があるのではないでしょうか。

そもそも三位一体改革とは、小泉内閣がスタートした直後に決定されたいわゆる「骨太の方針」の中で、地方財源の主要な構成要素となっている「地方税」「国庫補助金」「地方交付税」の三者を一体として改革するというものでした。その改革によって、地方自治体の多くの方々は、「これは地方分権を強化する道につながる」と期待したわけです。

一方、国の財務当局は、三位一体改革によって住民サービスに対する地方の責任体制を明確にする、すなわちサービスと負担の関係をより強化することによって、全体としての財政の健全化につなげたい、歳出の削減につなげたいという気持ちをもっていました。

つまり三位一体改革という政策は、地方の側からみれば、地方分権強化策と映り、財務当局から見れば財政健全化の有力手段と映ったわけです。言うなれば、同床異夢の状態でスタートした三位一体改革の実態、ズレがここで改めて明らかになったわけです。

率直に言いまして、私は少なくとも今回決定をみた三位一体改革の内容は、地方分権の強化よりも国・地方を通じる財政健全化に向けてその一歩を踏み出したという感を強く抱きます。

 

引き続き地方分権改革を重点政策に

三位一体改革について残された課題は、財政全体が厳しさを増す中、本当の意味で地方自治体が地域行政のイニシアティブをもち、責任をもつ体制を確立することができるかどうかではないかと思います。すなわち、補助金について言えば、補助率を引き下げた以上は、その行政に対する実質的な権限を中央から地方に移す必要があり、また地方はしっかりと行政を遂行しなければならないと思います。このことが実現して初めて、本当の意味での三位一体改革が成功したと言えるわけです。

小泉内閣は今年の9月までと決まっておりますが、地方分権改革の一層の推進はわが国にとって、将来にわたる課題です。したがって、ポスト小泉の政権においても、地方分権改革を引き続き重点政策として進めていく必要があると思っています。

2006(平成18)年1月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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