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石原信雄の世相診断 Vol.14

地域再生の広報力を

新年明けましておめでとうございます。

年の始めに当たり、今年1年に新たな期待を込めて、それぞれの活動に臨まれている方も多いと思います。

振り返ってみると、昨年(2003(平成15)年)は残念ながら、全般的にあまり良い1年とはいえませんでした。国内では、経済の低迷が依然として続いたほか、海外では、原因不明の新型肺炎(SARS)が東アジアで流行したり、イラク戦争が勃発(ぼっぱつ)したりするなど、国内外で不安定な状態が起こりました。SARSに関しては、今冬、再び流行するのではないかと危惧(きぐ)されていますし、イラク戦争では、戦争終結後のイラク復興支援のために日本の自衛隊が派遣されることになっており、今年に入っても、それら情勢の行方がたいへん気にかかるところです。

さて、私たちの暮らしに直結する日本経済の動向については、だれもが気になるところでしょう。幸い、政府の経済見通しでは、若干ではありますがプラス成長を予定しており、また、いくつかの経済指標でも改善の兆しが見られるようです。肝心なのは、これらが本格的な回復軌道につながっていくかどうかということですが、私は、昨年に比べてやや好転するのではないかと、期待の目で見ています。

今年(2004(平成16)年)は申(さる)年。陽気で活発に動く猿のように、社会の暗いムードを吹き払い、活気ある社会にできればと願っています。

 

厳しさを増す地方財政の中で地域特性に応じた「地域再生」を図る

一方、地方行財政を展望しますと、その道のりは険しいと言わざるを得ません。

経済情勢の低迷を反映して、財政の状況も一段と厳しさを増しています。平成16年度の政府予算を見ましても、予算全体の規模は前年度とほぼ同じですが、税収の落ち込みや国債への依存といった厳しい状況は変わっていません。

地方財政についても事情は同様で、国から地方への補助金削減をはじめ、地方単独の公共事業費の支出抑制、頼みの綱である地方交付税交付金の5年ぶりの減少など、前年度に引き続いて、その規模が圧縮されました。

このように、ますます厳しさを増している地方財政ですが、逆に言えば、これからの自治行政は、国からの補助金や指導に頼るのではなく、自治体自らの努力や判断で行っていく。つまり、自分たちの力で、自分たちの責任において事業を進めていくことが求められている証(あかし)でもあります。

ところで政府は、今後の地域活性化について新たな対策を打ち出しました。

内閣では、地域経済の活性化と地域雇用の創造を地域の視点から総合的に進めていくため、昨年10月、内閣に地域再生本部を設置。同本部では12月末に、「地域再生推進のための基本指針」を策定しました。特定の地域に限定して国や都道府県の権限を地方自治体に委譲するのが特徴で、今後、自治体などからプランを募り、支援措置を盛り込んだ「地域再生プログラム」をまとめることになっています。

政府が進める地域経済の活性化策には、地域に限定して規制緩和を進める構造改革特区制度がありますが、地域に権限を移譲し、国が支援を行うことで、特区制度と合わせ、経済再生や雇用創出の牽引(けんいん)役になることが期待されています。

こうした一連の地域活性化策に共通して言えるのは、従来のように、中央からの補助金などに頼った活性化対策ではないということです。文字どおり、地域の再生は地域の努力や工夫によって推し進められていくべきであるというのが、これらの基本姿勢です。

厳しい財政状況のもと、限られた予算の中で、いかに知恵を振り絞って地域経営に当たっていくかが問われています。これはまさに、地域間の競争といえます。各自治体間のアイデア競争が本格的に始まったということです。

 

民の力を引き出し、いかに連携を図るかが課題

言うまでもなく、地域間競争の時代においては、各自治体とも、政策担当者の企画・立案能力が問われてくるはずです。その際、財政上の制約が強まるという事情もあることから、地域活性化のために民間の力を活用するということがキーワードになってくると思います。近年では、民間の資金や経営能力、技術的能力を活用するPIF(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)や、アウトソーシング(業務の外部委託)といった手法も盛んに検討されています。NPOをはじめ、こうした民間の活力をいかに活用するかが、これからの地域経営のポイントになってくるのです。

いずれにしても、従来のように、十分な予算をもって、あるいは国からの補助金を頼りに施策を展開するのとは違い、それぞれの自治体が、限られた財源を上手に使い、地域の活性化を図っていく。アイデアで勝負していく時代になっていくことは間違いないでしょう。大事なのは、そのときに広報活動はどうあるべきかを考えることです。様々な施策を推し進めていく上で、広報活動の重要性は飛躍的に高まるはずです。厳しい時代だからこそ、あらゆる組織・団体にとって「広報力」がこれまで以上に大切な役割を担うことになると確信しています。

広報広聴メディアも多様化、複雑化しています。これまでの手法だけでは通用しないことも多々あるでしょう。そういったときこそ、広報にも知恵と工夫が必要です。各自治体において、地域の活力を取り戻すために、住民の英知と意欲を最大限に引き出す努力を怠ってはならないと思います。

2004(平成16)年1月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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