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石原信雄の世相診断 Vol.11

市町村合併は地方自治を守るための施策

市町村合併特例法の適用期限が2年後に迫っているということもあって、このところ市町村の合併論議が全国的に盛んになっているように思います。特に、この4月に行われる統一地方選挙においては、経済の不況対策あるいは雇用問題などと並んで市町村合併問題が主要な争点となっております。市町村の合併は、住民生活にとってもたいへん大きな出来事ですから、選挙の際、その是非が問われるのは当然のことであります。

ところで、このところ小規模町村の合併をめぐって全国町村会などで「政府が合併を強力に指導することは地方自治の本旨に反するのではないか」という議論が行われております。そもそも、市町村が合併するかしないかは団体あるいは住民自身が決めることであって、国や都道府県がこの問題にかかわることは好ましくないという意見があります。

この点について、私は全く異なる見解をもっております。

これからの市町村行政を取り巻く環境は、たいへん厳しいものになることは避けられません。そうした中で政府は、これからの地方行政は市町村が主役になるべきであるという方針を掲げております。私は地方行政の原理原則からいって、住民生活にかかわるもろもろの行政は、なるべく市町村が責任をもって実行することが望ましいと思います。

そういう前提に立ちますと、現在の市町村、特に小規模の町村の場合、残念ながらその行財政能力はきわめて限られております。これからあらゆる行政分野において専門的な知識・経験をもった人材が必要になりますけれども、残念ながら小規模町村においては、必要な人材を確保することが難しいと言わざるを得ません。

また、財政面について言いますと、これまでは経済の高度成長に伴う税収入の増加という背景もありまして、主として地方交付税の配分を通じて小規模町村に対して、豊かな財源が保証されてきました。しかし、わが国の経済の現状、あるいは今後の展望を考えますと、財政の危機的な状況が、近い将来、大幅に改善されるという期待はもてません。

そうなりますと、私は、これまでのように小規模町村に対して地方交付税などによって手厚い配慮を加えることは不可能であると思います。

これらの事情を総合的に勘案いたしますと、小規模町村に居住する住民に対して、もろもろの行政サービスの水準を維持し向上を図ることを目指すならば、やはり市町村が合併することによって、間接的な経費を極力節減して必要な住民サービスを確保するしかないと考えています。

そういう意味で、現在、政府が進めております市町村合併の推進は地方自治を守るための施策であり、厳しい経済や財政状況を前提にして市町村の合併を推奨することは、政府としてはいわば当然の責務であって、いかなる意味でも地方自治の本旨に反することにはならないと思います。その意味で、私は政府の考え方に全面的に賛成です。

合併に反対を唱えておられる町村長さん方の中には、これからも地方交付税等による財源の保証を継続すべきであると主張し、このことが前提となって合併は必要ないと言っておられる向きがあります。

しかし、財政状況が厳しくなるということについては、決して小規模町村に対するペナルティとして政府が主張しているのではなくて、わが国の経済や財政の展望からして、従来のような手厚い財源保証ができなくなってきているという前提で政府は合併を慫慂(しょうよう)しているのであって、そこのところを間違えてはいけないと私は思います。

ともあれ、市町村の合併については、今年がまさに正念場になると思います。

私は21世紀の地方行政を展望して、悔いを残さないように関係者は行動してもらいたい、特にこれから20年先、30年先、50年先の地方自治を考えた場合に、現在の町村長さんや議会の皆さん、あるいは職員の皆さん、政府の関係者はそれぞれ今後の住民に責任をもつ立場にあるわけですから、そういう視点に立って合併問題に取り組んでいただきたいと思います。

2003(平成15)年4月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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