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石原信雄の世相診断 Vol.9

動き出した構造改革特区構想

政府は、経済構造改革の戦略の一つとして、特定の地域に限って規制の緩和あるいは廃止を認める構造改革特区構想を推し進めています。この考え方は、国の財政支援あるいは税制上の特例措置を認めるという、従来の地域振興を目的とする地域指定と異なり、あくまで規制緩和を中心に経済の活性化を図ろうとするものです。

これまで政府が進めてきた地域振興、地域の活性化策は新産業都市や工業整備特別地域のように、一定の要件を備えた地域を指定して、そこに公共事業等を集中的に実施することによって日本経済全体の活力を引き出すというものでした。

今回の特区構想は、そうした従来の国主導の地域振興策とは異なり、現行法令によって行われている各種の規制を特定の地域に限って撤廃あるいは緩和することにより、あくまで各自治体が中心になって、その地域の活性化を促そうとするものです。

この特区構想には、現在、200を超える自治体が名乗りを挙げています。そして、その構造改革特区において特例を認めるように要請している内容は、単に産業振興関係のものだけではなくて、教育内容の高度化を図るものであるとか、あるいは医療保険制度の特例を認めるものであるとか、文字どおり広範多岐にわたっています。

こうした特定の地域に限って、現行制度上実施されている各種の規制を緩和したり、あるいは撤廃したりすることについては、所管の省庁はおしなべて消極的な姿勢を示しているようであります。この点は、かつて国の権限を地方自治体に委譲する特例措置としてパイロット自治体という制度が実施されたことがありますが、そのときの状況にたいへん似通った現象が起こっているといえます。

パイロット自治体というのは、市町村の中で通常は国や都道府県の権限とされている事務を、市町村がその責任において実施できるように事務権限の特例を認めるという制度でありました。

この制度については、当時も、関係省庁から強い反対が起こりました。その理由は、制度の全国的な整合性を損なわれ、行政が混乱するというものでありました。

当時、私は、内閣官房副長官として、このパイロット自治体の推進を側面的に援助した経験があります。およそ、事務権限の委譲などについて、その権限をもっている役所は、一部の自治体に特例的に委譲を認めることにはこぞって反対したものです。

しかしながら、各省の反対があるからといって権限の委譲を認めなければ、結局、何も改善されないことになってしまいます。私は、そこで、各省の反対を抑えて、意欲のある自治体については事務権限の委譲の特例を認めさせることに尽力いたしました。

そのときの経験が、後に地方分権推進法の制定につながり、やがて地方分権一括法として国や都道府県の権限を大幅に市町村に委譲する制度改革として実現したものと、私は考えております。

今回の構造改革特区構想についても、各省庁の反対があるからといって規制緩和等の特例を認めなければ、全体としての構造改革は前進しません。

私はぜひ、この際、各自治体が意欲をもって名乗りを挙げた規制の緩和や撤廃について、内閣は思い切ってこれを受け入れていくべきだと思います。そうすることが、構造改革を前進させる近道ではないかと思っています。

政府は先般、内閣に構造改革特区推進本部を設置しました。この推進本部を中心に、各省庁の意向を抑えてでも構造改革特区の実現を前進させると聴いております。

私は、この面については、内閣の強力なリーダーシップが必要であると考えています。地域の振興や発展については、従来のように公共事業を中心に補助率の特例であるとか、税制上の特例に依存するやり方は、これからは通用しないということを政府は明快に示してほしいと思います。

2002(平成14)年10月掲載

石原信雄の写真 石原 信雄

1926年生まれ。
52年、東京大学法学部卒業後、地方自治庁(現総務省)入庁。82年財政局長、84年事務次官、87年(~95年)内閣官房副長官(竹下、宇野、海部、宮澤、細川、羽田、村山の各内閣)を務める。
現在、公益社団法人日本広報協会会長、一般財団法人地方自治研究機構会長。

 

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