最近、にわかに関心が高まっている〝人口減少時代に地方自治体はどう対応すべきか″について考えます。
ご案内のように、平成26年5月8日に日本創成会議の中に設けられた人口減少問題検討分科会(座長/増田寛也・元総務大臣、前岩手県知事)が、我が国の人口減少の実態と原因、またそれが及ぼす影響等について、たいへん深刻なレポートである「ストップ少子化・地方元気戦略」を発表しました。
その要旨は、我が国の人口減少は待ったなしの状況にあること、それは全国トータルの問題ではなく、若年女性の流出と人口減少により、2040年には全国の地方自治体の半数を超える896の市町村が「消滅可能性都市」になるというショッキングな提言でした。
提言では、地方の人口減少をもたらす原因は、根本的には合計特殊出生率が依然として低下していることを挙げていますが、もう一つは若者が大都市、特に首都圏に集中し続けていること、そしてその二つが相互に関連していることを指摘しております。
このような認識の下、対策がいろいろ提案されておりますが、その基本は我が国の人口構造を変えるというものであり、これはたいへん困難を伴う問題です。提言では、最近の合計特殊出生率1.41を10年後の2025年に1.8まで引き上げることを目標にし、さらに20年後の2035年に2.1にすることができれば、日本の総人口は9,500万人を維持することが可能となり、それは高齢化比率の引き下げにもつながるということです。しかし、このような人口構造を変えるという対策は効果が出るまでに長時間がかかるだけに、この問題への対応は早ければ早いほどよいことを強調しております。
そして、さらにいろいろな具体策が提言されておりますが、要は若者や女性が活躍できる地域社会を作るということです。
増田座長がこの提言を発表したのは昨年5月8日のことでした。これがどのような時期かといえば、政府各府省が新年度の政策を検討し始める時期に当たります。ご承知のように、各府省は8月31日までに新年度の概算要求を提出することになっており、その前の、通常国会が終わってから新年度に向けて新しい政策の検討を始める時期に、この提言が発表されたということです。
また当時にしますと、約1年後の平成27年4月に統一地方選挙が行われますので、その時期に地方の人口減少問題を大きく取り上げたことで、各府省や政府与党の関心が非常に高まったということができます。
また増田座長の提言の多くが、政府のアベノミクス政策の項目と合致する点が多いことが言えます。そのようなことから、政府はこの提言を受け、ただちにこれを当面の重点政策として取り上げることを決め、平成26年9月3日にさっそく総理官邸に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置しました。そして、同年9月12日には「地方創生基本方針」を本部決定しております。
基本方針のポイントは、若い世代の就労・結婚・子育ての希望を実現すること、2番目に中央一極集中に歯止めをかけること、3番目に各地域の特性に即応して地域課題を解決することを挙げております。この基本方針を通じて検討する項目としては、地方への新しい人の流れをつくること、各地方に仕事を作り、安心して働けるようにすること、それから若い世代の結婚・出産・子育ての希望を叶えるということを挙げております。
さらに政府は、こうした考え方のもとに「長期ビジョン」と「総合戦略」を年内に決定するという方針を決めました。そのような流れを受けて、平成26年9月末に召集された臨時国会に「まち・ひと・しごと創生法案」を提出し、11月に成立しております。この法律では、まち・ひと・しごと創生の「基本理念」「国の責務」「事業者等の努力義務」を規定しています。
この中で非常に重要なポイントは、政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を作らなければいけないということを自ら義務づけており、それに対応して都道府県や市町村は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定するように努力することを定めております。
それに基づいて、具体的な戦略を決定したわけですが、その戦略の中にあります長期ビジョンとしては、まず人口の東京一極集中に歯止めをかけること。それから結婚・出産・子育てにつきまして、まず第1子の出産前後の若者の就業率を引き上げること、特に問題として指摘されたのは、男性の育児休業の取得率を引き上げること、若者の就業率を高めること、フリーターの数を減らすこと。教育の面でいうと、各都道府県内の大学への進学率を高めること、それから新卒者の都道府県内の就職率を引き上げること、などをそれぞれ具体的な目標として定めています。
そうすることによって、「長期的には2060年代までに人口1億人を維持したい」「それまでに経済の実質成長率を1.5%から2%台に引き上げたい」という内容の長期ビジョンを決定しております。この長期ビジョンを達成するために、さっそく政府は平成26年度の補正予算の中で、地方創生がらみの予算を3,275億円計上するとともに、地方創生の交付金として内閣府に4,200億円の予算を計上いたしました。
さらに平成27年度の当初予算には総合戦略を踏まえた政策として、7,225億円を各府省に計上しています。さらに社会保障の充実を図るということで、これは子育て支援等を含めて地方創生の趣旨に沿った各施策を強化するものとして、1兆3,600億円を計上しています。また、これとは別に地方自治体の一般財源を保障するための地方財政計画には、「まち・ひと・しごと創生事業」として総額1兆円を計上するということも決めております。
以上のように、政府はこの問題に全力で取り組む姿勢を示しています。問題は、これを受けて各地方自治体がいかに具体的な政策に結び付けられるかということではないでしょうか。
政府も強調していますが、今回の地方創生は、国が一定の方向を示して、これに誘導する国主導型とか、国が定めた方向に沿って国が交付金を配るいわゆるバラマキ型ではなく、地方創生の事業はあくまでも各地域の特性を踏まえて、各地方自治体が主体となってこれを進めていくこと、そして各地方自治体の施策に対して、中央政府はこれを支援するということです。
主役はあくまでも地方ですから、地方がいかによいアイデアを出すか、またいかにこれを実行していくかがポイントであると思います。
従来、各地域の振興を図るために、歴代の内閣は非常に苦慮してまいりました。たとえば、田中(角栄)内閣では日本列島改造論が行われましたし、大平(正芳)内閣では田園都市国家構想というものが打ち上げられ、さらに竹下(昇)内閣の時代にはふるさと創生事業が行われました。いずれも国が一定の方向を示し、それの裏付けとして国が一定の予算措置を講じてきましたが、いま振り返りますと、それぞれの政策が必ずしも十分な成果を上げたとは言えません。
今回は、過去の例も踏まえて、あくまで各地方自治体に主体となってやっていただき、政府はこれに沿って側面的に支援するという立場を強調しています。しかし、この地方創生というものは、いま安倍内閣が進めているアベノミクスの成果を上げるためにもきわめて重要なテーマでありますので、まさに中央政府と地方自治体が一体となって取り組むことになると思います。
私は過去の地域政策の例などを踏まえ、今回の地方創生が成果を上げるためには、何よりも地方自治体の首長のリーダーシップが大切だと思っています。またその首長を支える、あるいは協力する立場にある議会や住民が一体となって、とにかくやる気を起こすこと、地域を守るために何としてもやるんだという強いモチベーションを起こすことが大切です。
もちろん単に意欲だけでは成果が上がりませんから、本当にその地域の実情に即した効果の上がる政策を作って、実行していくことです。そのためには私は、この問題についての知識や経験を十分に持った人材の確保が大きなポイントになると思っています。
2015(平成27)年1月掲載