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石原信雄の時代を読む Vol.17

安倍新政権が担う国民の期待と重責

民主党の敗北によって勝利した自民党

平成25年は自民・公明両党を中心とする新政権の誕生とともにスタートします。新政権は、衆議院では議席総数の三分の二を超える数を持っていますので、いわゆる安定政権としての要件が整っています。しかしながら参議院では、依然として自民党・公明党だけでは過半数に達しておりません。つまり過去3年間、民主党政権が悩まされた衆議院と参議院のねじれ現象は少なくとも今年の7月まで続くことになり、自公連立政権はそうした中で多くの課題に立ち向かっていかなければならないことになります。

昨年の暮れに行われた衆議院選挙を振り返ってみますと、自民党の圧勝、民主党の壊滅的な敗北という結果が非常に印象的でした。なぜ民主党は大敗し、自民党が大勝したのか。その原因を考えてみますと、私は自民党の政策に対する評価というよりも民主党の過去3年間の政権運営に対する国民の幻滅感、期待を裏切られたという国民の怒りが自民党への期待という形になって表れたのではないかと思っています。その意味では、今回の選挙結果は自民党が勝ったというよりも民主党が負けたということが特色として挙げられるでしょう。

 

非現実的だった民主党のマニフェスト

民主党が大敗を喫した要因は三つあります。

一つは前回の衆院選で、308議席という大量の議席を確保する要因となった民主党のマニフェストが、実は非現実的なものであったことが次第に明らかになり、国民の期待を大きく裏切ってしまったことです。

マニフェストには子ども手当の創設、公立高等学校の授業料の無償化、農家の戸別所得補償制度、更には有料道路の無料化など国民が喜ぶような政策が列挙されていました。しかし、その裏づけとなる財源については、既存の予算を見直せばそれに充てることができるはずという極めて抽象的なものであり、実際、その財源はほとんど出てきませんでした。そうした経緯の中で、国民がマニフェストにだまされたと感じたことが、民主党敗因の一番大きな原因ではなかったかと思っています。

もう一つは、消費税率の引き上げ問題やTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)の問題その他について事ごとに党内で意見が分かれ、結局、民主党は分裂してしまいました。一枚岩になれなかった民主党政権の下では重要な政策は何も決まらない、決められないと国民に思われてしまった。こういった要素が重なって、民主党に対する不信が一挙に噴き出したということではないかと思います。

しかし、以上の二つは民主党の失点によるもので、その裏返しとして自民党が勝利したということです。つまり、民主党敗北の原因となったようなことはもう繰り返してほしくないと国民が思っていることを、新政権は肝に銘じる必要があります。

 

第3極を目指す政党はもっと現実的かつ具体性のある提案を

民主党が大敗を喫した三つ目の要因は、今回の衆議院選挙に向けて過去に例のないほど多くの政党が誕生したことです。そこでは、いわゆる第3極というものがクローズアップされました。しかし、結果として第3極を狙った小政党は、政府や官僚攻撃には大変激しいものがありましたけれど、具体的で前向きな政策はあまり示していませんでした。そしてまた、多くの政党が同じような主張をしていましたので、選挙民は選択に迷い、票が割れて、結果として自民党の大勝の原因にもなり、投票率が過去最低にとどまったことの原因にもなったと思われます。

二大政党に対する批判勢力としての第3極を目指す政党は、やはり整合性のとれた政策を提示する必要があります。既存政党に対する提案は、もっと現実的で具体性のあるものを掲げていくことが民主主義の発展のために望まれるのです。

 

雇用問題の早期改善こそが最大の課題

以上のような経緯の下で、自民・公明両党を軸とする連立政権が誕生しましたが、現在、国民は経済の問題あるいは外交の問題に多くの不安を抱えています。安倍新政権にはそれらに対する的確な対応を期待したいものです。

まず、経済・財政の問題ですが、国民は長い間低迷を続けている日本経済に活を入れてほしいと思っています。安倍新政権は、直ちに大胆な金融緩和政策を行い、経済財政諮問会議を復活させて政府の政策を強力に展開するといった積極的な姿勢をみせていますが、何よりもその先にあるものは雇用の回復です。雇用環境は長い間厳しい状況が続いており、多くの大学生や高校生が就職できない状況に置かれています。この雇用問題を早期に改善することが新政権にとって最大の課題ではないでしょうか。

さらに、そこで留意すべき点が財政との関係です。無計画に公債を乱発すると、必ず財政が悪化してそのつけが回ってきます。ですから大胆な金融政策、大胆な財政出動を行う場合には、それに伴う公債増発の償還の担保として、財政の立て直しについての将来計画も同時に示す必要があると思います。

 

外交問題は平和裏に処理する努力が必要

経済の問題と不可分の関係にある外交問題も重要です。平成24年は、外交面において中国や韓国との関係がたいへん悪化した年でありました。その原因は、中国との関係についていえば尖閣諸島をはじめとするいわゆる領土問題での意見の対立であり、韓国についていえば竹島の帰属問題やいわゆる従軍慰安婦の扱いの問題について両国間の不信感が高まったということです。

領土の問題に関しては、尖閣も竹島も我が国の固有の領土であることについては一片の疑いもないところでありますが、具体的な対応についてはいたずらに相手国を刺激するような政策は避けるべきだと思います。つまり、我が国固有の領土という原則を守りながら、一方では相手国との関係を平和裏に処理する努力が必要ではないでしょうか。

特に中国は、いまやアメリカを抜いて我が国にとって最も大きな貿易相手国となっています。日中関係の悪化は日本経済の立て直しにとって深刻な影響をもたらすことなのです。したがって、尖閣諸島をめぐる日本の基本的な立場を変える必要はありませんが、具体の対応については、日中間の関係をいたずらに悪化させるような行為は避けることが賢明でしょう。

韓国との関係についても原理原則は譲れませんが、具体の対応についてはいたずらに相手を刺激するような行為は避けていくという大局観に立った外交の展開が望まれるところです。

 

自主憲法制定は国民の意識が高まることが前提

ところで、安倍総裁をはじめ現在の自民党は、憲法の改正を党の基本政策の一つにしています。これについて私は、いわゆる自主憲法の制定は日本国民の誇りの問題であると思っています。そしてまた、日本国民、特に若い人たちの間で自主憲法の制定に対する意識が高まることが前提であり、今はまだ憲法改正問題を早急に政治日程に取り上げる段階にはなっていないと思っています。

憲法の在り方は、一国の誇りの問題としてこれからも真剣に検討を続けなければならない課題ですが、この点については国民の意識の高まりを求める努力を地道に続けることが大切ではないでしょうか。

2013(平成25)年1月掲載

 

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