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石原信雄の時代を読む Vol.16

政治の現状と選挙制度

日本の政治に対する国民の不満は頂点に

社会保障と税の一体改革をめぐる最近の政治の動きや、昨年の東日本大震災での政府の対応など、一連の政治の動きについて国民の多くが失望感というよりも危機感を抱いているのではないかと思います。その原因は、我が国が重大な局面に立たされているにもかかわらず、政府が適切な政策決定を出来ない状況が続いているからです。何も決まらない、何も実行されないことに対する国民の不満は、いまや頂点に達していると言っても過言ではありません。

政策決定ができない原因は何かと言えば、一つには衆議院と参議院のいわゆるねじれ現象が挙げられますが、その根底には政党を完全にまとめて政策を強力に遂行する能力のあるリーダーが出てこないという、最近のリーダー不在の政治状況があり、それが今日の事態を招いているのではないかとの見方が強くなっています。

 

小選挙区制導入の背景と経緯

政治の基本は、国民のもろもろの意思をくみ上げ、これを実行に移すことです。そのためには、それを可能にする政権をつくり上げるメカニズムが機能するかどうかが大切であり、その前提として国民の意思を国政に反映させる選挙と選挙制度が最も重要な要素となります。

現在の我が国は、衆議院では小選挙区比例代表並立制を採用しています。この制度は1994年の細川内閣の時に実現したものでありますが、そもそもは1989年の竹下内閣退陣の原因となった「政治とカネの問題」が世論の批判を受け、その根本原因が派閥政治にあるとみなされたことに端を発します。その派閥政治がはびこる素地が中選挙区制にあると言われ、小選挙区制が採用された経緯があるのです。

中選挙区とは、選挙区の単位を3人区ないしは5人区で編成する仕組みです。同一選挙区で複数の当選者を出すこの制度は、同じ政党が複数の候補者を立てて、複数の当選者を出し得る制度ですので、そういう仕組みが、特に自民党の派閥を生み出す一つの原因になっていると見られたわけです。

派閥が中心になって政党活動が行われると、その派閥を維持するために政治資金が必要になり、それが政治資金制度と絡んで、いわゆる金権・癒着の体質を生んでしまったという反省がなされたわけです。そこで、政府の選挙制度審議会が中心になって、「政治とカネの問題」を根本的に正常化するための選挙制度は何かと議論した結果、小選挙区比例代表並立制が最も望ましいということになりました。

そのための改正法案は、当初、海部内閣から国会に提出されましたが、党内の中堅以上の議員が反対し、結局、海部さんは総理の座を退くこととなります。これを引き継いだ宮澤内閣でも、党内の意見が分かれ、結果として選挙制度改革を実現できず、そのことが一つの原因となって宮澤内閣は退陣をいたしました。そして、選挙制度改革を唯一最大のテーマに掲げた細川内閣がこれを引き継ぎ、実現したという歴史があります。

この「政治とカネの問題」を根本的に解決するためには、個人選挙から脱却しなければならず、また候補者個人に対する個人や法人からの献金を禁止することが政治の浄化の基本であると認識されました。

そのような考え方の下、小選挙区比例代表並立制においては、小選挙区では一つの選挙区から一人の当選者を出すこととし、その一人のポストを二大政党が争う形がもっとも望ましいと考えられたわけです。つまり理想的には、選挙はすべて政党が中心になって行い、政治家個人に対する献金は原則禁止する、特に企業献金は一切禁止するということがいわば前提となって、この選挙制度改革が進められたわけです。

 

政治の劣化の根本原因はどこにあるか

しかし、現実の選挙の運用を見てみますと、当初の理想のとおりにはなっておりません。政党が最適の候補者を選んで、その候補者をもっとも当選しやすいところから立候補させるという、イギリスで行われているような小選挙区制が理想と考えられたわけですが、我が国では政党が中心と言いながら、実際は各政党の都道府県連が中心になって候補者を選んでいます。そして、その際には選挙に強い人、選挙地盤のある人を優先するという傾向が定着しています。

さらに、候補者個人に対する企業献金は禁止すべきという議論が一番肝心であったにもかかわらず、一部残ってしまいました。このように「政治改革」が非常に中途半端な形になってしまったことと相まって、当初の小選挙区比例代表並立制の理想どおりの選挙が行われていないところにいろいろな問題の根本があるのではないかと思います。

特に、優秀な人材を政党が選んで、その人材を政党の責任で小選挙区に割り振るということが行われずに、選挙地盤があり当面の選挙に強いと考えられる候補者を選ぶ今のやり方が、結果として二世議員、三世議員を増やすことになっています。二世議員、三世議員が全ていけないということではないのですが、やはり親の地盤を引き継ぎ、あまり苦労せずに上がってくる候補者は、それなりのインパクトに欠ける嫌いがあります。

 

立派な指導者、力のあるリーダーの誕生を望む

私は長い間、中選挙区制時代の政治家とお付き合いをしてまいりました。当時の政治家は、日々厳しい選挙を戦っておりましたので、苦労をしていますし、物の見方も的確であり、何より力を持っていました。最近は苦労をせずに親の地盤から上がってくるような人が増えているように感じます。その辺りが強力なリーダーが生まれにくい原因となっているのではないかと思います。

選挙制度についてはいろいろな見方があるでしょうが、いずれにしても現在のような形で小選挙区制が運用され続けるのであるならば、我が国の政治の劣化は避けられないのではないでしょうか。小選挙区制を継続するのであれば、文字どおり政党が中心になって選挙を行う形をもっと徹底することと、優れた人材を政党が選んで、政党の責任で当選させるという態勢を確立させる必要があります。

それができないのであれば、かつての中選挙区制の復活を真剣に考えるべきではないでしょうか。そのほうが立派な指導者、力のあるリーダーが誕生しやすいのではないかと思っています。

 

2012(平成24)年7月掲載

 

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