8月末に行われた民主党代表選挙において野田佳彦さんが選ばれ、民主党政権3代目の内閣総理大臣に就任されました。
2年前の総選挙で、民主党政権は国民の圧倒的多数の支持を得て誕生したわけですが、残念ながら、鳩山・菅両政権ともに国民の期待を大きく裏切る結果となっていました。そう考えると、後がない民主党にとって、野田政権は最後の希望を託された政権と言うことができます。
民主党の代表選挙と総理大臣就任後の所信表明演説を通じて、野田さんは党内の融和と、与野党の対話を重視する政治路線を明らかにされました。
また、菅内閣においては、3月11日に発生した東日本大震災への対応で大きな後れをとり、被災地では多くの皆さんがまだまだ悲惨な状況に置かれたままとなっておりますので、野田内閣としては、何よりも震災の復旧・復興を急ぐこと、さらには福島第一原発事故の後処理を急ぐことが最大の使命であります。
野田さん自身もこのことを特に強調しています。当然のことだろうと思います。震災に関連した案件については、与党はもちろん、野党も国民的な視点に立って、小異を捨てて復旧・復興政策に協力していただきたいと思います。与党と野党は政策を通じて政権を争う立場にありますから、国会やその他の場で対決することになるのはやむを得ないところでありますが、こと震災の復興については党派を超えて急がなければならないテーマであります。
この際、野党も、野田さんの対話を重視する政治姿勢に応え、第3次補正予算をはじめ、震災の復興や原発事故の対応について、大局的な見地から協力をしていただきたいと思います。
さらに野田さんは、財政再建についてたいへん前向きの姿勢をとっておられます。
我が国の財政が極めて危険な状態に陥っていることは何人も否定できません。しかし、これまでのところ、民主党政権においては具体的な財政再建の論議は先送りされてきました。
民主党代表選では、野田さん以外の候補者全員が増税に慎重姿勢を示しましたが、この点についても野田さんは勇気ある発言を続けておられます。今日、アメリカにおいてもヨーロッパにおいても、経済の不振と財政の悪化が問題となっており、各国が財政の健全化に向けて必死の努力をしております。そのような中、一人我が国だけがこのテーマから逃れることはできません。
その意味で、まずは民主党自身が野田内閣の財政健全化路線を一致して推進すべきではないかと思います。また野党も、税制の個別の問題はともかくとして、税制改正を含む、財政健全化の方向・方針については異論がないはずであります。この点についてもぜひ大局的見地から与野党の議論を進め、具体的な結論を出してもらいたいものです。
そのほか、最近の異常な円高などにより、我が国の産業は空洞化の危機にさらされています。これを放置すれば、そうでなくても厳しい状況にある雇用情勢がさらに悪化することは避けられません。円高対策については思いきった政策を展開してもらいたいと思います。
また、原発事故との関連で、現在、停止・点検中の原子力発電所の再稼働の問題についても議論が交わされています。福島の悲惨な状況を考えますと、原発の再稼働には慎重にならざるを得ない面はあります。しかし、十分な安全対策を講ずることを前提とした上でも再稼働を認めない場合は、我が国の電力事情は極めて厳しいものとなり、電気料金の高騰を招くことは避けられません。このことは、急激な円高と相まって我が国の産業の立地条件をいっそう悪化させる要因となりますので、この再稼働の問題も、政府が大局的見地から勇断を持って臨む必要があるのではないでしょうか。
最後に、野田さんが代表選の際に述べられた政権構想の中で、これまでの誤った政治主導を改め、政権と官僚機構との信頼関係の回復と、政・官の協調関係を強調されたことは、ある意味で画期的なことであろうと思います。
これまで民主党は、鳩山内閣も菅内閣もマニフェストの順守にこだわり、またマスコミの批判等を恐れて政権運営に当たり、ことさらに官僚組織を排除する姿勢をとってまいりました。このことが両政権における政策の遂行を渋滞させる大きな原因となったことは間違いありません。この点について、野田さんは率直にその非を認め、積極的に官僚組織との協調関係を打ち出されました。私は政治家として勇気ある発言であり、また極めて妥当な姿勢であろうと思います。
我が国はいま、内外情勢ともに大変厳しい状況の下に置かれています。この難局を乗り切り、国民生活を安定させるためには、私は官僚組織も野田さんの期待に十分応えていく必要があると思います。政と官が一体となって取り組んでいただきたいと思います。
2011(平成23)年9月掲載