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石原信雄の時代を読む Vol.11

菅政権への期待と課題

官僚組織を活用する姿勢を高く評価

去る9月14日に行われた民主党の代表選挙において、菅直人総理が圧勝し、引き続き国政を担当することになりました。菅さんについては、市民運動家からスタートしたという経歴もあって、国政改革について期待される一方、政権担当能力という点において不安視する声も聞こえてきます。

菅さんは、鳩山内閣退陣の後を受けて、本年6月に内閣総理大臣に就任されました。以来、政権の最高責任者としての自覚からか、あるいは鳩山内閣の下で副総理、財務大臣を務めた経験からか、官僚諸君の意見も積極的に取り上げ、現実的な政権運営を目指していることに一定の評価を与える向きも多いようです。一方、再び官僚主導の政治に逆戻りするのではないかと危惧・不安視する人もいるようで、政権運営の手法についても見解が分かれるところです。

野党時代の民主党は、自民党政権と対峙する中で官僚組織への批判を行ってきました。しかし、政権を預かった以上は国民のために最善の施策を実施しなければなりません。そうした中で、菅内閣が官僚組織を活用する姿勢に転じたことは、むしろ高く評価されるべきではないでしょうか。ただ、菅総理には、若干、優柔不断の謗(そし)りを免れない面もあるようですので、一国のリーダーとして最善の決断力を発揮できるよう、今後の奮起に期待したいところでもあります。

 

官僚組織を活用する姿勢を高く評価

それにしても、最近の我が国を取り巻く諸々の状況には大変に厳しいものがあります。

経済についていえば、アメリカやヨーロッパなど先進国グループが軒並み不況に苦しんでいる中で、中国やインド、韓国などの新興国の躍進が目立っており、世界的な経済の枠組みは大きく変わりつつあります。こうした状況の変化に、我が国がどのように対応するかについて、まだその方向が見えてこないことは大きな問題でしょう。

安全保障の面についていえば、東西の冷戦構造が解消して以降、中東地域やアフリカその他で、局地的な紛争がむしろ多発しています。また、我が国の周辺では北朝鮮の核開発の進行、あるいは海洋資源をめぐる中国の強硬姿勢などの不安定要因が増大しています。

一方、国内情勢を見ると、少子高齢化の進行がいっそう深刻な様相を呈しており、経済の長期低迷の要因となっています。財政の面では、長引く不況の影響もあって、税収の大幅な減少と、社会保障費を中心とする歳出の増加の狭間で、財政危機はますます深刻さの度合いを増しつつあります。

こうした内外の情勢に対処し、国民生活の安定を確保するためには、まさに政・官・財がその力を結集して事に当たらなければなりません。しかし、昨年発足した鳩山政権の下では、誤った政治主導の考え方の下で、国民の総力を結集することができなかったと言えます。特に政権と官僚組織との関係は、かつてないほどの憂うべき状況になっていたと言えましょう。

 

安全保障の問題は党派を超えて緊急に対処を

菅総理には、これまでの誤った政治主導の手法を改め、積極的に官僚組織の英知を引き出し、より効果的な政策を打ち出してもらいたいものです。国政の方向づけは政治家の主導の下で行われるべきことは当然ですが、個々具体の政策については、それぞれの行政分野の専門家集団である官僚組織の知恵と経験を生かして、より効果的な政策を実行に移してもらいたいものです。

また、今般の尖閣諸島沖における中国漁船衝突事件の取扱いは、我が国の安全保障や日中相互の関係を踏まえた上での、総合的な判断に欠けたところがあったと言わざるを得ません。私はこのような国の安全にかかわる事案については、早期に適切な対応が取れるようにするためにも、いわゆる日本版のNSC(National Security Council)、すなわち国家安全保障会議を早急につくるべきだと思います。安全保障の問題は与党、野党の党派を超えて、緊急に対処すべき課題なのです。菅内閣の英断を望みます。

 

2010(平成22)年10月掲載

 

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