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石原信雄の時代を読む Vol.10

民主党政権に望むこと

鳩山政権から菅政権へ

菅内閣の下での参議院議員選挙が、まもなく投票日を迎えます。その結果については、マスコミその他がいろいろな予測を行っていますが、どうやら民主党の圧勝とはならない情勢のようです。いずれにせよ、今回の参院選の結果が、今後の政局に少なからぬ影響を及ぼすにしても、民主党政権は当面、継続するものと思われます。なぜならば、民主党は衆議院において300議席を超える圧倒的な数を持っているからです。

その圧倒的な数の力は、昨年8月の総選挙によってもたらされました。民主党が唱えていた政権交代は現実のものとなり、大きな期待と注目の下で鳩山内閣がスタートしました。ところが鳩山内閣は、一つには政治資金をめぐる問題で国民の信頼を大きく失い、また普天間基地の移設問題をめぐっては、国内国外から大きな不満を招いてしまいました。そのため、鳩山内閣が発足8か月余りで退陣し、その後を受けて菅内閣が誕生したのは皆さんご承知のとおりです。

 

施策の方向転換を示した菅総理

今回、総理大臣に就任された菅さんは、若いころから市民運動に身を投じ、反官僚主義を掲げて今日まで活躍してこられた政治家です。いわゆる二世三世議員ではなく、ゼロからのスタートで今日の地位を獲得された人であるだけに、国民の期待には大きいものがあると思います。

その菅総理は、就任早々いくつかの点で我々が想定していたイメージとは違った政策を打ち出しました。その一つが政権運営の進め方です。すなわち、鳩山前政権では、「官僚依存からの脱却による政治主導」を掲げましたが、その実態は官僚組織を排除する傾向を強めたことで、政府の各種施策の遂行に大きな齟齬(そご)が生じたと見られています。

菅総理はその点について大胆な方向転換を示しました。「真の政治主導とは官僚組織を積極的に活用していくことだ」と話し、官僚諸君の積極的な協力を求めるとしました。私はこの点こそ、菅総理が大きく成長された一つの表れだと評価しています。

もう一つは、政策の大胆な見直しです。民主党は昨年の総選挙時のマニフェストにおいて、子ども手当の創設や農家の戸別所得補償、あるいは高校以下の授業料の無償化、さらには道路特定財源の一般財源化などを国民に約束しました。しかし、我が国の経済や財政の現状から、このマニフェストをそのまま実行することは極めて困難な状況となり、この点について率直に、現実的な手直しを打ち出しているところです。

とくに子ども手当の問題については、財源の見通しを待って、今後の扱いを決めると言われていますし、そして何よりも我が国の財政の現状を的確にとらえ、税制の抜本的改革を含む財源確保の方策についても取り上げています。

このように菅総理が、我が国の現状を踏まえながら政策の展開を図っていることについては、もっと高く評価されてもよいのではないでしょうか。

 

税制問題をクリアできるかどうかが民主党政権の試金石

消費税の税率引き上げを含む税制の抜本改革の問題については、今回の参議院議員選挙における大きな争点となっています。与党の一部の人や多くの野党が消費税率の引き上げに強く反対していますが、我が国の財政が極めて深刻な状況に陥っているという点について、政府を批判する立場の人たちは敢えて触れておりません。

私は政権を担当する立場にある指導者には、一国の将来を見据えて、ときに国民に不人気な政策でも敢えてこれを取り上げる勇気と責任が必要であると思います。その意味で、私は菅総理が税制の問題を提起したことは高く評価されて然るべきだと思います。さらに言えば、この問題をクリアできるかどうかが、民主党が長期にわたって政権を担当できるかどうかの試金石になると思うのです。

 

日本の現状を正しく伝えるために広報の努力を

我が国の財政の現状には非常に厳しいものがあります。いわゆる無駄を省くことだけで社会保障の充実・強化に必要な財源を賄えるほど甘くはありません。本来、財政とは、行政サービスに対応するコストを、国民が税金や社会保険料などで負担することによって成り立つものなのです。

現に我が国が目指す社会保障の水準と同等の水準を維持している先進各国では、いずれも消費税の税率は10%台後半の高さであり、全体としての租税負担率も、歳出に見合って我が国よりもはるかに高い水準になっています。つまり、日本のみが、高い社会保障の水準を低い租税負担率で賄えるということはあり得ない話なのです。

経済を成長させれば財源が増えるではないかというような論をなす向きもあります。しかし、その場合においても適正な租税負担率を確保しなければ、必要な財源は出てきません。

私が民主党政権、菅政権に改めて望みたいのは、今後しばらく我が国の政治を預かるという強い意志があるならば、当面、国民の批判を受けたとしても、この国の将来を健全なものにするために必要な施策を打ち出してもらいたいということです。

選挙前ともなれば、与党も野党も選挙民に受け入れられやすい甘い政策を打ち出す傾向がありますが、我が国を取り巻く状況はそんなに生やさしいものではないということを選挙民も認識する必要があります。そして政権担当者は、そうした現状を更に正しく国民に知っていただくために、広報の努力を続けていかなければならないと思います。

 

2010(平成22)年7月掲載

 

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