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石原信雄の時代を読む Vol.8

民主党政権への期待と危惧

国民の圧倒的な支持を得て誕生した民主党政権

去る8月30日の衆議院議員選挙では、民主党が当初の予想をはるかに超える308議席を獲得し、圧勝しました。民主党の勝因についてはいろいろな見方がありますが、今回の選挙に至るまでに自民党が国民の支持を失ってしまったことが、何より大きな原因であると見る人が多いようです。

ともあれ、民主党は国民の圧倒的な支持を得て、政権を担当することになりました。今回の選挙を通じて、国民の多くが現在の生活の不安、将来に対する不安の解消を、民主党に期待したということができます。

 

政治主導の国政運営に期待する

ところで、民主党は今回の総選挙に当たり、その政策の体系をマニフェスト(政権公約)として示しております。これから民主党政権がどのような政策を実行していくか、現段階では不明な点もありますが、その大きな柱として、政治主導による国政運営を掲げていることはご承知のとおりです。国民はこの点についても、民主党に期待を寄せたものと考えられます。

では、民主党政権は具体的にどのような形で政治主導を実現するのか。鳩山内閣のこれまでの施策をみると、まず初めに、従来、官僚主導の国政運営の象徴的存在と考えられていた事務次官会議を廃止し、必要な政策調整は、閣僚によって構成される閣僚委員会において行うこととしました。

また、内閣の重要政策について論議し、その方向づけを行う組織として、国家戦略局(現段階では国家戦略室)を設置し、副総理である菅直人氏が国家戦略担当大臣としてこれに当たることになりました。一方、民主党政権は、既存の組織や予算の無駄を徹底的にえぐり出し、メスを加えることを重視しており、それを実行する組織として行政刷新会議が設置されました。この会議を担当する大臣には仙谷由人氏が当てられています。

これらの組織の構成メンバーは、現段階では決まっていませんが、事務組織の責任者として、国家戦略室長には古川元久内閣府副大臣が、また行政刷新会議の事務局長には政策シンクタンク「構想日本」代表の加藤秀樹氏が就任することが内定したと伝えられています。古川氏といい加藤氏といい大変に有能な方々であります。

また、各府省では、すでにそれぞれの省が担当する政策について見直しが開始されていますが、その見直しは各府省の担当大臣と副大臣、及び政務官の三者からなる政務三役会議において議論が行われることになるようです。

いずれにしましても、鳩山内閣は去る9月16日にスタートして以来、着々と政治主導による国政運営の形を整えつつあります。これまでの自民党政権の下においては、政策決定の過程で官僚組織が重要な役割を果たしていたことは間違いありません。そして、そのことが国民の気持ちに沿わない政治・行政につながったと見られておりましたので、まずは、民主党政権による政治主導の国政運営に期待したいところであります。

 

行政の実態に即した政策決定を

一方、いくつか心配なこともあります。一つは、事務次官会議の廃止に関連して、各府省の官僚トップによる記者会見を原則禁止したことです。確かに、政策の決定を政治主導で行う以上、官僚トップが政策に関して記者会見を行う余地はなくなったといえます。しかし、行政の執行過程で起こる様々な問題について、官僚組織の責任者が、それを国民の前で説明するのは必要なことであり、これを全面的に禁止するのが正しいかどうか、いささか疑念を禁じえません。なぜなら官僚の記者会見の禁止は、国民と行政との距離を遠くしてしまう恐れがあると思うからです。

また、政治主導の形にこだわるあまり、行政の実態から乖離した政策が行われることも心配です。国家戦略室といい、行政刷新会議といい、また各省の政務三役会議といい、いずれも政策の議論や政策の決定を行う上で重要な役割を果たすわけでありますが、日々の行政執行にあたり、日ごろからそれぞれの分野の政策について分析し、検討している官僚組織の知識や経験、あるいは意見というものを政策形成にどのように生かしていくのかが、まだ明らかになっていません。

また、現段階では、国家戦略室において決められる予算編成の大方針と、具体的な予算編成を担当する財務省との関連もやや不明であります。さらには、新たな政策の裏づけとなる財源を捻出する上で、重要な役割を果たす行政刷新会議と国家戦略室との関連も、いまの段階では明らかでありません。

民主党政権が国民の負託にこたえるためには、これらの各セクションが十分連携をとり、総理大臣主導の下で、統一した政策をスピーディーに実行に移せるようにすることが大切だと思います。

 

公共事業の削減によって生じる雇用問題をどうするか

今後の展開を考えたとき、さらにいくつかの心配な点があります。その一つは、諸々の政策を実行する上で、中長期的に多くの財源が必要となります。社会保障政策にしても、教育政策にしても、あるいは環境政策にしても、それらは必ず負担を伴うものです。民主党政権が掲げる諸々の政策とその財源の関連において、今後どのような税制を構築すべきか、早急にその方向を示すことも必要ではないでしょうか。

また今後、行政刷新会議が中心になって、独立行政法人や公益法人の全面的な見直しが始まり、さらに公共事業をはじめとする多くの歳出の見直しが行われることも、大きな懸念材料の一つです。つまり、これまで実施してきた政策を取りやめ、あるいは縮小することによって、当然、新たな問題が起こってくるからです。

例えば公共事業の大幅な削減が行われれば、主として地方において多くの建設関係従事者の雇用の場が失われます。その雇用対策をどうするのか、新たな視点での対策が当然必要になってきます。

 

天下り禁止は公務員の人件費削減と相反する

鳩山内閣では、公務員制度改革の一環として、公務員の天下りのあっせんを全面的に禁止し、それとの関連において、国家公務員の早期退職慣行を改めるとしています。これについては、公務員が早期退職をさせられず、職場にとどまれるという安心感を持つ面もありますが、一方では責任ポストを持たない多くの公務員が新たに発生することを意味します。

この人たちの仕事をどのように確保するのか、また総体としての人件費を削減するという民主党の方針との整合性をどのようにして確保するのでしょうか。更には、早期退職をせずに、公務員として定年までとどまる諸君の士気をどのように確保するのかといった多くの問題があります。この点について、一つには納税者の立場から、一つには公務員労働者の立場から、明確な方針が示されることが望まれます。

いずれにしても、有権者の圧倒的な支持を得て民主党政権が誕生し、新内閣が船出しました。鳩山内閣が国民の期待に応えられるよう、まずは国政運営の舵取りぶりを注意深く見守っていきたいものです。

 

2009(平成21)年10月掲載

 

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