昨年は、米国のサブプライムローン問題を発端とする、世界的規模での金融不安と経済不況が一気に広がった年でした。当初、我が国では、金融機関の体質がしっかりしているので、あまり問題はないとの見方もありました。しかし、その後、世界的規模による不況拡大のあおりを受けて、我が国も金融機関だけはではなく、あらゆる産業界にその影響が及んでしまいました。率直に言って、多くのエコノミストたちがごく最近まで憂いていた事態よりも、現在は、その深刻の度合いがはるかに増しています。
このような事態に対して、米国やEUをはじめとする各国は、それぞれに最大限の対策を講じようとしています。我が国も、麻生内閣の下、第一次補正予算に続いて第二次補正予算を取りまとめ、さらには平成21年度の当初予算で思い切った対策を織り込んでいます。しかし、一連の政府の対応を見ていると、考えさせられることが少なくありません。特に、不況対策としていろいろな施策が議論されていますが、それらの中にはどうも目先のことに終始していると思われるものが少なくないのです。
いろいろと批判の出ている定額給付金もその一つです。一定の基準の下、国民に一律にお金を交付するというこの政策について、私は全く賛成できません。国民に一律にお金をばら撒くというだけの対策では、一過性の経済効果のみで終わってしまいます。2兆円規模のお金があれば、もっと将来に向けて意味のある対策を講じるべきではないでしょうか。緊急の不況対策といえども、それは同時に、これからの時代にも生きてくるような予算の使い方でなければならないと思います。
かつての雇用対策の中に、緊急失業対策事業というものがありました。これは、失業者に賃金を支払うことを目的に、土木工事などの公共事業を行うというものでしたが、インフラ整備の重複(無駄)が指摘されたり、事業の効率性に問題があったりして、その後廃止されました。私は、いま雇用対策を講じるのであれば、その対策がこの国の将来にとって本当にプラスになる、意味のあることに使うべきではないかと強く思います。
一例を挙げれば、いま我が国の山林は危機的な状況に置かれています。多くの山林は、間伐や枝打ち、下草刈りなどの手入れが行われないために、たいへん荒れた状況に陥っています。私は、その山林を生き返らすために、公共事業として間伐などを行う施策の実現を望んでいます。これは雇用対策だけでなく、過疎対策にも環境対策にもなるといった具合に、この国の将来に大きなプラス要素をもたらすことでしょう。政府にはそのような戦略性のある予算の使い方を、ぜひ考えてもらいたいものです。
一方、この世界同時不況の下で、非正規労働者が大量に解雇されるという問題が生じています。労働者一人一人の立場になればたいへんつらい話でありますし、また、これまで企業を支えてきた人たちを、需要が減ったからといって直ちに解雇するのはあまりにもひどい話ではないかという人情論には説得力があります。
しかし、考えてみますと、仕事がないのに労働者を抱えなさいと企業に強要することもできません。なぜなら、何が原因であれ、その企業が倒産に追い込まれれば、正規労働者も含めて地域全体が大きなダメージを受けてしまうからです。
つまり私は、企業が生き残れるようにする中で、非正規労働者の生活をどう守るかについて考えていく必要があると思います。具体的には、企業の力では支えきれなくなり、解雇される労働者の生活を安定させるために、すべての企業が負担する救済策を、国あるいは自治体とともに考えるべきだと思います。
もはや企業の安定と労働者の雇用問題を、労働者一人一人の犠牲の上に任せておくわけにはいきません。同時に、個別の企業にすべての責任を負わせることにも限界があります。やはり今回、大規模に発生した非正規労働者の解雇のような問題については、国全体の問題として考えていくべきであろうと思います。そしてそうした人たちを救済するに当たっては、単に金銭を給付するということではなくて、この人たちを地域のために、あるいはこの国のために、将来意味のある分野でその労働力を発揮してもらう方法を考えるべきでしょう。
そのためにも、これからの雇用対策は既成の概念にとらわれない21世紀型の雇用対策として位置づけ、具体案を考えていくべきではないかと思います。その一例が、日本の山林の再生に労働力を投入するということであり、そのほかにも、全国的に広がっている耕作放棄農地の活用なども、十分考えられる事柄ではないでしょうか。
今回のような事態に対処するためには、政治が強力なリーダーシップを発揮しなければならないことは言うまでもありません。しかし、現状はどうかといえば、衆議院と参議院のねじれ現象は相変わらず解消されず、その影響もあって、必要な政策がスピーディーに実行できない状況に置かれています。政治が国民の期待にこたえられる状況になっていないということは、たいへん憂うべきであります。
今年中には、衆議院の解散総選挙が行われるわけですが、いま進行中の事態はたいへん深刻であり、一刻の猶予も許されません。私は、このような緊急かつ深刻な事態に際しては、与野党が垣根を超えて、まさに挙国体制で対策を講じるべきであると、強く願っています。
2009(平成21)年1月掲載