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石原信雄の時代を読む Vol.1

格差問題について考える

与党の敗北につながった二つの格差問題

2007年7月の参議院議員選挙では与党が大敗を喫し、その結果、衆議院は与党が絶対多数を持ち、参議院は野党が過半数を制するねじれ状態となりました。この状態が国民生活にとってどのような影響をもたらすか、非常に心配されるところです。

ところで、与党が大敗した原因については、政治資金を巡る問題であるとか、年金の処理の問題であるとか言われていますが、私は二つの格差問題が最も大きな原因だったのではないかと思っています。一つは、所得格差の拡大という国民の懐にかかわる問題。もう一つは、地方自治体の間に財政力や経済力の差が生じているいわゆる地域格差のことです。これらの格差が広がったことが、選挙民の不満となり、それが与党の敗北につながったことはほぼ間違いありません。

 

大規模かつ急速な歳出削減も格差拡大の要因に

格差問題は、これまでの小泉政権や安倍政権が進めてきた政策と深くかかわっています。すなわち経済成長のために市場原理を重視し、企業や国民に競争を促してきた政策です。日本が国際社会での競争を勝ち抜き、国全体としての経済力を高めることこそ国益であるという考えに基づき、規制を廃止したり緩和したり、あるいは歳出を削減して、行政をよりスリムな形にしようとしてきたわけです。

しかし、歳出の削減には、財政の持つ所得再分配機能を縮小するという側面があります。つまり、国民からいただく税金を政府が一定の基準で再配分していく中で、社会保障であれば比較的豊かな人の負担で貧しい人の生活を守り、その水準を引き上げていくという機能を持っているわけです。ところが、歳出の縮小は政府機能の縮小も意味しますから、大規模な歳出削減を急速に行えば、どうしても財政の所得再分配機能が後退し、地域格差は必然的に拡大し、所得格差も広がってしまうのです。

 

格差問題にからむ税制の問題

では、社会主義国家のような極端な平等主義をとればよいのでしょうか。かつてのソ連や東欧諸国、中国は、国民相互間の平等を重視した結果、かえって国全体が貧しくなってしまいました。その反省から社会主義体制が崩壊したことを考えれば、小泉政権や安倍政権が進めてきた成長政策はある程度理解できます。しかし、その進め方が非常に急であったことと、弱者対策が少し手薄だったという点に問題があったのではないかと思われます。

また、小泉政権や安倍政権においては、競争原理と歳出削減を徹底すれば経済全体が発展し、おのずと格差問題が解消されるという説明がなされていたわけですが、私はそう簡単なものではないと思っています。なぜなら、格差問題の背後には以下のような税制の問題がからんでいるからです。

国民がその受けるサービスに見合ったコストを負担するという原則に照らし合わせると、現在の税負担の水準が歳出と見合っていないところに最大の問題があります。つまり、いま問題になっている格差を縮小・緩和するには、歳出の水準に対して国民が負担する税や社会保険料の負担を一致させる必要があるのです。言い方を換えれば、プライマリーバランスを黒字化するわけです。

その実現には、当然、歳出の見直しと削減の努力をしなければなりませんが、現在の収支のギャップを歳出削減だけで埋めようというのは幻想に過ぎません。現在の我が国の財政状況からすると、所得格差解消のために社会保障のレベルを引き上げたり、あるいは地方に対して地方交付税をはじめとする財源調整的な支出を大幅に増やしたりすることは不可能なのです。もし歳出削減だけを進めていけば、残念ながら所得格差や地域格差はいっそう大きくなってしまうでしょう。

 

サービスに見合ったコストの負担は不可欠

現在、福田政権となり、増税についても議論されるようになりました。これはたいへん正直な姿勢であり、大きな前進といえます。我が国の経済や財政の実態を直視すれば、増税は避けて通れない選択肢なのです。もちろん選挙民はだれも増税を望みません。税金はそのままで、福祉はもっと厚くしてもらいたいと思うのが普通の人の心理です。しかし、私たちが受けるサービスに見合ったコストは、私たちが何らかの形で負担していかなければならないわけです。

ところで、増税の議論をすると、金持ちや大企業から多くとるべきだという人がいます。金持ちから税金を多くとれというのは、所得税率・住民税率の累進構造をもっと強くするということですが、それを極端にしてしまうと、人々の働く意欲の低下につながります。事実、ほかの国では所得税の累進税率を下げる傾向にありますし、我が国もそういう方向で税制改革がなされてきたわけです。

一方、企業課税を強化せよとの主張ですが、こちらも残念ながら、法人税が高すぎると企業の海外流出を招きかねません。周辺諸国ではみな法人税を我が国より低くしているわけですから、法人税の引き上げもそう簡単にはいかない事情があるのです。

 

整合性ある税制の提示を望みたい

やはり、大部分の国民に、その受けている行政サービスに見合った負担をもう少し高めていただく必要があります。具体的には消費税の税率をどうするかということになりますが、納税者の皆さんにぜひご理解いただきたいのは、一部の人の税負担を重くするだけでは、現在の格差を解消するのは不可能だということなのです。

政権を担当しようとする政党が、国民受けの良い歳出を増やす話ばかりして、その裏打ちたる財源の問題について多くを語らないというのも非常に無責任です。衆議院と参議院で逆転現象が起こった今こそ、そして今後二大政党が政権を交替で担当しようとする今こそ、政権担当を目指す政党は整合性のある政策、具体的に言えば歳出に見合った税収を確保できるような税制を提示し、それをきちんと国民に説明する姿勢を見せてもらいたいものです。

2007(平成19)年11月掲載

 

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